「あんた、よう編んだね」と芝さんは驚き、その笠を仕上げてくれた。
実は編むのはそれほど難しくない。ひよなどの材料集めが大変なのだ。

  熊野の檜を専用のカンナで薄く削り、編む場所によって異なるひよを作る。
文章にすると簡単なようだが、木は削ってみないとわからない。

 森林組合の関係で、切り出した檜の端材は比較的容易に入手できるが、使えるものはごくごく限られる。
最後の補強で使う竹も、近年は適した真竹が手に入り難くくなっている。

  芝さんに編み方を教わったことはないが、一緒に檜や竹を採りに行き。
皆地笠に適した材料の選び方は習った。あとは作製中、失敗する度に相談に行っていた。

  一つ作るのに3日かかる。1か月で10個がせいぜいだ。
一方で、注文は多い。熊野古道の語り部ガイドを務める妻の仲間や世界遺産の姉妹道。

  サンティアゴ・デ・コンボステーラに向かう人たち、首都圏を中心に女性だけで結成された。
「熊野古道女子部」などからだ。今注文が来ても、1年待っていただくことになる。

  芝さんは皆地笠を「飾らんといて、使ってよ」と言っていた。
私も使ってこその「用の美」だと思う。

 

 

     (  日経 文化 より 「皆地笠 熊野詣の相棒を継ぐ」    )