トヨタの工場では床に落ちているものは絶対に使わないのです。

  掃除をしている時に、ねじが1本、落ちていたとします。見た目も中身も新品です。
それでも絶対に使いません。落ちて衝撃を受けていて、ひょっとしたら強度に問題があるかもしれないからです。使用するのが不安な部品は使わない。これは鉄則です。

  ねじだけに限らず落ちている部品は絶対に使わないのです。
そして、落ちているのを拾ったら、そこから考えます。
「どうして落ちていたのか?」「どこから落ちたのか?」真因を追究します。

  部品棚に穴が開いていて落ちたのかもしれないし、自動搬送機械が揺れたのかもしれません。
真因を追究し、対策を施すのです。部品を拾って終わりにするのではなく。
二度と落ちないようにすることがトヨタが掃除を通してやることなのです。

  社長が来ても持ち場を離れたりしない
  現在の社長、豊田章男さんは時間が空くと河合満おやじ(トヨタの肩書。元副社長であり、現場の長老)と。ふたりで工場にやってきます。工場のなかを見て回って。
休憩している若い作業者と缶コーヒーを飲んだりしています。

  仕事をしている作業者たちは社長が来たからといって持ち場を離れたり、挨拶したりはしません。
社長とおやじが「おはよう」といっても、こくんとうなずくくらいです。
それに対して、社長もおやじも怒ることはありません。仕事優先だからです。
社長や幹部にいいところを見せようとは思っていません。これは見学者に対しても同じです。

  おやじとわたしが工場へ入っていったとしても、作業者たちはいつもと同じように仕事をしています。
歩行帯ですれ違った時、「おお、おやじか?」と珍しく笑いかける若者がいたと思えば。
「あとでコーヒーおごってくれ」と言って手を振ります。

  働く素振りをしている者はいないのがトヨタの現場です。みんな、ちゃんと働いています。
なるべく早く切り上げて家へ帰ろうと思ってさくっと働いています。

  なぜ、トヨタの工場には標語が少ないか
そんなトヨタの工場で見かける標語はひとつだけ。「よい品、よい考」
頑張ろう、目標必達のようなわざとらしい言葉、押しつけがましい内容のことは標語にしません。
上司も「頑張れ」とか「一生懸命やれ」とは言いません。叱責(しっせき)もしません。

「結果を出せ」「プロなんだから、プロの仕事をしろ」これだけです。

  そんなトヨタの現場で、いいなあと感じたのは社長とおやじが工場から出ていく時の姿です。
ふたりは缶コーヒーを飲んで、話した後、工場を後にするのですが。
建屋から出ると、くるりと振り向いて、帽子を脱いで頭を下げます。
そして、何事もなかったかのように本社の事務室へ歩いて戻ります。

何気ない動作ですが、それは工場と機械と働く人たちをリスペクトしているから自然にできることなのでしょう。
( PRESIDENT Online より )