現役時代は勝ち抜かなければいけない相手であり、目標でもあった。
強く当たってもゴムのような柔らかい体で力を吸収されたり、逆に鋼の塊にぶつかるように押し返されたり…。
つかみどころがなくて、とにかく当たりづらかったですね。
スピードや馬力、器用さも兼ね備えている中で、何より驚かされたのが横綱の「相撲脳」です。

  誰よりも自分と相手を研究して、徹底的にシミュレーションを重ねて相撲と向き合っていた。
白鵬関の現役最後の場所(21年名古屋場所)で。
正代を相手に仕切り線から下がって立った相撲がありましたよね。
その理由が気になっていて、白鵬関が引退してから聞いてみたんですよ。

  横綱の答えは「何回シミュレーションしても、いつもの立ち位置からだと。
正代に踏み込まれて相手が有利になるイメージばかりだった。
それで仕切り線から少し後ろに下がって立ってみたら、いいイメージがわいた。
脳が全部、指令を出すんだよ。脳に悪いイメージがあったら、その通りになる。
いいイメージがあれば負けることはない」。そこまで深く考えてるんですね。

  それから、土俵上での勝負勘や集中力も突き抜けていた。
これも白鵬関から引退後に聞いた話ですが、こんなことを言ってました。
「俺はさ、土俵上では相手を刃物だと思って戦っていた。
だから相手がスローモーションに見える時が結構、多かったんだよ。
栃煌山に後ろにつかれた時(19年春場所)もゆっくりと見えていたから。
すごく余裕があって全然、危なくなかった」。
どれだけ極限状態で相撲を取っていたのかって話ですよね。

(  東スポWEBより 元大関琴奨菊 )