灯の父親は、差別や貧困を乗り越えてきた先祖の苦しみを娘に強いる。
「なんで分からへんのや」と怒号を浴びせ、「分かるわけないやろ」と灯も応酬する。

   両者が言葉をぶつけ合う迫真の演技が印象的だ。
成洋自身も在日だが、その中でも出自や世代、日常の言語によってひずみが生まれると体感してきた。

   親子げんかの途中で灯が居たたまれずトイレに駆け込むシーンがある。
画面は閉められたトイレの扉だけを数分間にわたり映し続ける。

   父親と同じように、見る者もまた灯を待つ心境になり、無言の意味を突きつけられる。
全編を通してうして人の人との分かりあえなさを描き出すが。

   成洋は「分断を対立につなげないためにも、一人になれる場所が重要」だと言う。
「心の復興とは、復興し続けること。インターネットでいつでも誰ともつながる時代だからこそ。

   芸術作品は他者とのコミュニケーションを確保しつつ、何度も自分を見つめ。
振り返る機会を与えるものであるべきだと思う」。

 

     (  日経  文化より 「『分かるわけない』を超えて」 )