主将は内野手が望ましいとされる。
試合中、ベンチに目配せでき、ピンチのときにはピッチャーと内野全体を鼓舞できる。
1年時からショート、セカンドで試合に出続けている熊田は適任である。本人の意欲もあった。
しかしそれでも、監督は外野手の森田をキャプテンに指名した。

  「選手たちからの人望がある。まじめで、言われたことを愚直に頑張ることができる」と。
新キャプテンの性格をたたえた上で、監督は目を細めた。

  「森田の強みは、自分のことを下手くそと分かっているところ。
なんとかうまくなろうと練習する姿勢がいい。スマートさはなく、時に滑稽なくらいに頑張る。
その姿を、みなが見ている」

  みなが見ている。これこそが早稲田大野球部のキーワードだと思う。

  まず、監督が部員たちのことを良く見ている。

  昨年夏の合宿で、当時の4年生幹部に話を聞いた。
部員の選抜の話になったとき、「(小宮山監督の起用法は)フェアだと思います」と彼は言った。
合宿メンバーにしてもベンチ入りにしても、代打や代走にしても。
その人選は部員の誰もが納得できるものなのだと。

  技術的にうまくない部員が必死で頑張る。そして壁を越え、一頭地を抜き、登用される。
仲間たちはその一部始終を見ている。

  小宮山自身も「結構、見てますよ」と、さりげなく言う。
たとえば取材で部員について聴くと、「今、一番バットを振っている」。
「肝が据わっている」などと間然するところがない。

懸命に練習しているかどうかは一目瞭然(りょうぜん)。
多くの経験を経て母校に戻ってきた指揮官には、たいていのものが見えてしまう。ソックスの穴さえも。

(  ダイヤモンド・オンライン より )