仲代さんが多くの監督たちに信頼されてきた理由はいくつかある。
一つは、役者としての技量だ。仲代さんの大きな特長は、その役柄の幅広さにある。

   黒澤作品だけをとっても「用心棒」のニヒルなやくざと「椿三十郎」の剛直な剣客では。
1年以内に演じたとは思えない別人ぶり。

   五社監督「人斬り」で知的で冷血な志士を演じたと思えば。
同じく五社監督「鬼龍院花子の生涯」では無教養なやくざの親分を熱く演じた。

   間が抜けた中年男に見せかけて実は凄腕の持ち主という岡本監督「殺人狂時代」や。
野蛮な盗賊から泰然自若とした武田信玄に変貌する黒澤監督「影武者」のように。

   一作の中で役柄の雰囲気を劇的に変化させることもできる。
それを可能にしたのは「役者の声は楽器である」という考えの下に培われた高度な技術だ。

   低音から高音まで幅広く発声する技術を獲得。役柄に応じて声を変えて見せた。
自身が最も低音を出したという小林監督「切腹」と、嫌味な権力者を演じた山本監督「金還蝕」の高音を。

   比べると、その音域がよくわかる。
先に挙げた「殺人狂時代」では前半と後半で発声を大きく変えることで、キャラクターの違いを表現した。

 

       ( 日経  文化 より 「名監督の理想かなえたプロ」 )