彼が中日のコーチだったとき、キャッチボールをしたことがある。
さすがに名人、どんな球もパチン、パチンとグラブの芯で捕った。

   いい音がするのは球に対してグラブの面を直角に出しているから。
バックハンドだと、自然に直角になるように人の体はできている。

   順手、つまりグラブをはめた腕の側にくる球が、案外難しい。
彼は微妙に体をかわして直角を保っていた。

   グラブに斜めからボールを当てるより、90度で正対させた方が取りこぼしが少ない道理。
彼の指導で、中日では堂上直倫や髙橋周平らが、めきめきと腕を上げた。

   みていると、飛びついて捕るような”ノックショー”をやるわけではない。
簡単なゴロを打ち続け、90度で収める確率を高めていく。

   私たち投手族は野手に美技で助けてほしい、とは思っていない。
取れるアウトを確実に取ってくれるのが一番だ。

       (  日経 悠々球論 より  )