悪石島から避難が始まった。
村役場は本土にあり、島に職員はほとんどいないが、整然と避難する住民の姿に安堵した。

   その光景を見ながら、島は船便が生活サイクルになっていることを思い出した。
週2便、生活物資を積んだ船がはが着くと、島に時間が動き出す。

   ゆったりした時の流れを断ち切るような揺れが恨めしい。
ずいぶん前、小宝島の小学生が読書感想文コンクールで児童文学の名作「モモ」を題材に。

   時間どろぼうのいない小宝島に来て、と書いて最優秀賞に輝いた。
じっくり話を聞いてもらうと物事がよい方向に向かう。

   ともにする時間の長さが信頼を育む。
「モモ」が諭す人間関係の理(ことわり)であろう。

       (  日経  春秋 より  )