「大変、悩んでいます。夢をもって入社しましたが留学できるとは思えません。
会社を辞めることも考えています」と率直に話した。

   「世間知らずが何を甘いことを」と叱られることを覚悟したが。
「夢を持ち、今の現実とのギャップに悩むことは、良いことだよ」と坂井さんは穏やかな口調で話された。

   「でも、その現実が本当にどんなものかを知るには、まだ時間が少なすぎる。
だからこれから1年間頑張ってみて、1年後にまた会おう。何も変わらないようなら、辞める選択肢もありだ」。

   この言葉で気持ちがスーッと落ち着いた。何か新しい世界にいるような感じになった。
偶然その頃、阪急東宝の創業者、小林一三さんが書かれた本を読んだ。

 ご自身の体験から「高い志を持ちながら、足元の仕事に注力すること」が重要だという言葉に共感した。
なんだかだんだん気持ちの持ちようで「道は開ける」と思えるようになってきた。

       (  日経  私の履歴書 より 魚谷 雅彦  資生堂前会長CEO )