記念本の序文は、舞台監督のクリスチャン・シュッテカルが書いている。
代々上演に参加してきた家系に生まれ、1990年以来、4回目の監督を務める彼は。
かつてはキリスト教徒しか参加できなかった公演をその他の村人にも開放し。
従来の脚本に見られた反ユダヤ主義的傾向を是正してきたことなどを淡々と語っている。

そして、「コロナ禍の今、新たな誓いは立てないのか?」と尋ねる多がる人に対しては。
「大笑い」で答えるしかないと言い、現代の病気や戦争や飢饉は神が与えた「罰」ではなく。
すべての人間に起因するのだと断言する。

オーバーアマガウの村人達はどうやら、キリスト誕生の生涯をたどる演劇を。
世界の現状を見直し、再解釈する契機にしてきたようだ。
伝統という名を冠した力強い批判精神にぼくは脱帽した。
(  日経 文化 より  ドイツの村で劇を見た   栩木伸明  )