山田さんが療養の末、89歳で旅立った。
「普通の家庭だけれど、じつは家族みんなが違う暗闇や自我、エロスを持っている。
そういうドラマを書けないかなと」。

  家族の崩壊を描いた代表作「岸辺のアルバム」をそう振り返っている(「光と影を映す」)。
まもなく半世紀になろうかという作品だ。こうも古びないとは。

  「君たちには無限の可能性がある」なんて、本当にいやな言葉だ。
そう語っていた山田さんである。「結局、みんな、ふずろいなんです」とも。

  戦争や災害で社会がすぐに一方向を向くこと、きれい事がまかり通ることを心底嫌った。
運も誤解も限界も、抱えたまま私たちは生きるものだ、と。
人間を見つめ通した生涯だった。。

          ( 日経 春秋 より )