石本は中世ヨーロッパのロマネスク芸術を、とりわけ愛したことで知られる。
40代から、画学生を連れて美術巡礼の旅を繰り返してきた。
遠近法が浸透する前の中世の宗教芸術へのただならぬ傾倒は、自らの芸術観と深く結びついていた。
写実にとらわれない。思いの強さで、対象を描く。そんな美術が、画家の心をとらえたのである。

「イタリアでは優れたフレスコ画が、地方の名もない人々の手で描かれ、守られてきた。
先生にはそれを発見する喜びがあった。芸術は名声ではない、という先生の考えは。
そこにも生きていました」。そう語るのは、京都市立芸大時代の教え子で巡礼の旅に同行した。
浜田市立石正美術館館長の西久松吉雄氏だ。
  (  日経  「石本正」展  より  )