ここまで来るのに10年かかったわけだが、強化以上に地域に溶け込む方が大変だった。
最初は「骨をうずめる覚悟もない有名人が何をしに来た?」みたいな視線を痛いほど感じた。

   自分の車にポスターを貼って走っても、試合のビラを配っても反応は鈍い。
連日、泊まり込む勢いで働いていた夜中、ふと「今治に友達はいるのか」と社員に聞いたらゼロだった。

  考え違いに気づいた。「試合を見に来て」とお願いする前に自分たちが町に人に会いに行くのが先だろう。
夜8時終業にして「各人まず友達を5人つくろう」が合言葉になった。

   地域委は高齢者が多い。始めたのが「孫の手活動」。
若いコーチが木を切る、重いものを動かす、何でも手伝いますと。

   そんなことを繰り返すうちに「1回試合を見てやるか」となった。

 

       ( 日経  私の履歴書 より 岡田武史・元サッカー日本代表監督 )