上京前は、漫画の仕事だけでは食べていけないと思い、アレコレ副業を考えていた。
商業高校出身なので、簿記2級、そろばん2級を武器に事務員はやれる。

   否、いつ漫画の仕事が入っても対応できるようにせねば。
スナックでツマミでも作りながら酔客の愚痴でも聞いてあげて、大抵の軍歌は歌えるから。

   おじさんとカラオケのデュエットくらいはしてやるか…とか考えていた18歳。我ながら怖い。
モットーは、左利きなので「右手に自由、左手に仕事」。

   仕事をキチンとやれば、自由も得られると思った。一方、漫画は自分にとって唯一無二の道楽だ。
人気漫画家と呼ばれるようになっても、大きなビジネスにするのは嫌だった。

   「もっと仕事を増やして世界を~!」とか言われても、自分を縛ることは極力避けたいし。
ライバルも昨日の自分でいい。

     (  日経  私の履歴書 より  一条ゆかり 漫画家 )