仕組みこそ単純だが、左右で重さが均等になるよう支点を決めるには案外難しい。
木材には形のゆがみがあるし、地域内でも場所により川の水量が違う。それを見極めてバランスを取る。

   川の恵みに頼る器作りは水害と隣り合わせだ。
2012年、23年夏の豪雨では唐臼が難題も流され、窯も浸水した。

   私は唐臼の新調に奔走し、窯元は土砂をかきだし、器つくりを復活させてきた。
木の腐食や水流の変化で左右の均衡が崩れると、動きが止まってしまう。

   痛んだ部分を取り換えたり、木片を付け加えたりして重さを調整する。
80歳を過ぎた今も、唐臼の状態を見て回る。

   柳宗悦はこうも書いた。「この緩やかな音があってこの窯がある」。
人間の日常が慌ただしさを増しても、唐臼は決して焦らない。

   特にときには手を休め、変わらぬリズムに耳を傾けるのもよい。

           (  日経 文化 より 「小鹿田焼の里、響く唐臼の音」  )