土地に根を生やし、土地を守り、土地を愛して生きるている人。
それが今回の1冊で出てきた答えだった。

  我々開拓3世が持つノスタルジーとはまったく違う、感情になど容易に流されない、強靭な歴史が見えた。
谷で生まれ、谷で育ったアイヌ民族である彼女にとって、アイヌであることは当たり前で。
「私は一個人でしかない」と言い切る。

  そして、「差別も明るくない歴史もあるけれど、先人が守ってきた紋様を使って。
自分のデザインを創り出すことができてラッキーだ」という。

  小説家の筆はときに誰かを傷つけるが、そんなことは百も承知で。
這いつくばりながら。書くことの欲に負け続けている。

  今さらではあったが、正直に「この解釈でいいだろうか」と訊ねた。
彼女は「新しいよ」と笑った。
  「もしわからないとすれば、それは日本が遅れているからだよ」の一言に、こっそりと泣いた。

   (  日経 文化  より 「書きたいという欲望」 )