「若者がチャレンジしなくなったのは、大人がチャレンジしないからなのかもしれないですね」

人生初の教育者としての日々を送って、1カ月が過ぎようとしている。
今の高校生の気質、横浜隼人という学園の雰囲気。さまざまなものが少しずつ伝わってきている初夏、5月。

  「手前みそになりますが」と前置きして、朝木さんが嬉しそうに話し始めた。

  「朝、車で学校に着いたら、入り口にコーンが置いてあったんですね。
それを見た生徒の1人が、向こうからサーッと走って来て、どかしてくれたんですよ。
こんなこともあったなぁ。生徒の親御さんみたいな方が玄関のところで。
行き先がわからなくて、女生徒に訊いているんです」

  するとその女生徒が「一緒に行きましょうか」と、付き添って案内していたという。

  「『ああ、横浜隼人ってそういう学校なんだなぁ』ってね。
ほんとに、ちょっとしたことなんですけど、思ってるだけじゃダメ、行動することが大切なんです。
隼人の伝統として、大事にしたいですね」

  「文武両道」はあくまでも結果に過ぎない?
朝木さんには、教育者としての立場に向き合うにあたって、しっかりと踏まえておきたいことがあるという。

  「文武両道って言葉がありますでしょ。いかにも響きのいい言葉だし。
金科玉条のように大事にされてますけど、私、ほんとにそうかなぁと思うんですね」

  「文武両道」はあくまでも結果に過ぎない、という。

  「成績のいい生徒が野球も好きで結果を出せば、文武両道といわれます。
一方で、運動は苦手だけど勉強は出来る子ってよくいますけど、これは決して文武両道とはいわれない。
でも、これはこれで、私、すごく立派なことだと考えてます。
大切なのは、得意なこと、好きなことを一生懸命頑張ることなんですよ」

  硬式野球や女子バレーが盛んな学校として知られる横浜隼人高だが。
もう1つの顔として、美術部、文芸部、和太鼓部などの文化部の活動も、全国レベルだという。
実際、校舎の廊下に展示されている数々の絵画の作品には、正直、圧倒される思いだった。

  「芸術系が得意な生徒は、その意欲と才能を一生懸命伸ばせばいいし。
読書が好きな生徒なら、とことん読み込めばいい。
そういううねりがあって、甲子園もあって、東大もあれば、学校として『文武両道』になれる。
それでいいと思います。
そういう在り方はよく文武“別”道と揶揄されますけど、それが良いんじゃないでしょうか。
文武両道というのは、個人に求めることではないと思ってますから」

  この国の子供たちの数が減っていく中、学校をめぐる課題は。
これまでのどんな時代より多く、深く、多様になっているのではないか。

   (  Number  web より    )