プロパガンダには裏読みが必須だ。
整然とした一体感が演出されているときほど、実は不協和音が響いていないかと疑わなければならない。

   本当に一致団結しているのならば、わざわざ団結を強調する必要などないからである。
レニ・リーフェンシュタール監督の「意志の勝利」もそうした視点で読み取れる。

   1934年にニュルンベルグで開かれたナチ党大会の記録映画だが。
大会前に、親衛隊(SS)によって突撃隊(SA)幕僚長レームらが粛清される内紛があった。

   その不穏な余波を払拭するように、劇中ではSS全国指導者ヒムラーと、レームの後任ルッツェが。
大勢の隊員の整列するなかをヒトラーに従って粛々と進み。

   ドイツの統一と秩序を印象つける場面が登場する。モンタージュの手法もみごとである。
笑顔でなにかを見上げる子供が映し出され、つづいてヒトラーの姿が登場する。

   それだけで、こどもさえ敬仰する偉大な指導者というイメージが。
観客のなかに自然と刻み込まれていく。

       (  日経  文化 より  「プロパガンダの威力」 )