ここでもやはりこの人について言及しなければなるまい。
プレイステーション3で「家庭のスパコン」を掲げた久夛良木健さんだ。

   いわずと知れたソニーの革命児でカリスマそのもといえる存在だ。
私のここまでの「プレイレステ改革」は。
そんな偉大な先輩の夢を否定するものだったと言われても仕方がない。

   ただ、久夛良木さんは「後は任せたから」と言った以上、私の方針に口を出すことはなかった。
腹の底では「なにをやってるんだ」と思うこともあったかもしれない。

   なんと言っても、かつての勢いを失ったソニーに。
ゲーム事業という新たな光明をもたらした大功労者だ。
それくらい言っても誰も文句は言うまい。

   ここに経営者としての矜持(きょうじ)を見たと思っている。
実はこの時の経験もあって、私自身が後にソニー社長を吉田憲一郎さんに引き継ぐときに。
こんなことを伝えた。

   「平井路線を否定していいただいてかまわない。私は一切、口出ししませんから」。
経営者が決めたことが正しいなんて限らない。
後に検証すれば間違いだったということも多いだろう。

   だが、決断することが経営者の仕事であり、そこに信念がなければ務まらない。
間違いに気づけば修正すれば良いだけの話だ。

   決して美談にしようというわけではなく。
久夛良木さんから教わった当事者だからこそ言える教訓なのだ。。

       ( 日経  私の履歴書 より  平井 一夫  ソニー元社長 )