「日本の伝統文化を守りなさい。そうすれば日本は文化的には負けたことにならないから」。
第2次世界大戦の終戦からしばらく後、15歳だった私が聞いた高校の先生の言葉は。
今も創作の原点として心の中にある。伝統芸術を身につけたい一心で、草木染やろうけつ染めを習い続けた。

  いっぽうの藍に興味を持ったのは、建築業に携わっていた父が。
「料亭のふすまの帯に本物の藍を使いたい」と口癖のように言っていたからだ。
戦後、故郷の阿波(徳島県)藍は化学染料に押されて廃れかけていたが。
私は草木からこんなに美しい生きた色が出てくるのかと感動した。
ピカソの「青の時代」の絵画にも重なって見えた。宇宙のような藍の青色で自分の世界を表現したい。
そう考えた私はろうけつ染めを思いついた。
(  日経  文化より  橋本陽子  藍染研究家  )