アラブ世界では詩が今も重要な芸術表現だ。
存命の詩人でこれほどの影響力と知名度を持つ人物は他に見当たらない。

   19世紀から起こった形式の破壊を通じた芸術・思想の価値・表現の革新運動である。
モダニズム運動を、アラブ文学界で主導してきた。

   同世代でノーベル賞を受賞した英国の作家、故V・S・ナイポールは。
「現代の巨匠」と評して敬意を示していた。

   シリア北西部ラタキア近郊のカッサビンという村に尾まれた。車も電気もない貧しい農家だった。
イスラム教シーア派の聖人の名になんでつけられたアリ・アハマド・サイード・エスベルという本名を捨て。

   ぺんネームの「アドニス」として生きる道を選んだことには。
早熟の詩人の変わらぬ哲学がかかわっている。

   「宗教とは答えであり、詩は問いかけである」という信念ある。
アドニスはギリシャ神話に登場する美と若さを象徴する青年だ。愛と美の女神アフロディーテに愛された。

 若き詩人は混沌の世界で他者から示される「答え」を受け入れることを拒み、自由と美を探る旅を始めた。


           ( 日経 My Story   より  詩人 アドニス )