最初に鼻先のパーツを作って、そこからレジンや接着剤で動物の姿を少しずつ広げていく。
目を入れると、ああ生まれた、という感じがする。

   クジラには「みちお君」、鹿には「せいじ君」と名をつけて。
時々話しかけながらアルミ蓋を加工し続けた。

   小部屋に閉じこもって作業するのは孤独だけど、みちお君がいてくれるから、決してさみしくはない。
手を動かしたのは私だけれど、動物たちを「作った」という意識はあまりない。

   頭の中の動物たちが、生まれてきたいと呼びかけてくれる。それに応えて、作らされているだけだ。
振り返れば、私は小さな頃から話すのが苦手な子供だった。

   言葉を使わずとも気持ちの伝わる飼い猫や動物たちが大好きだった。
就職して営業の仕事をしたこともあったが、上手に話せないまま、職を転々とした。

   人間は色々なことに思い悩まなくては生きていけない。
でも、動物はただ生き延びることだけを考えて、食べて、眠り、時々水浴びをしたり、尻をかいたりしている。

   ひたすら生を全うする動物たちは、一途で神聖だ。

       ( 日経  文化 より 「ワインの蓋、動物に変身」 )