…吉沢は撮影期間を含めて1年半、横浜も1年3か月、稽古した。
「1年半くらい使うことを合意できないと、映画そのものが始まらなかった。

   中村雁治郎さんが『曽根崎心中』を教えながら、歌舞伎俳優の生き方や考え方を伝え。
振り付けの谷口裕和さんが二人を歌舞伎俳優のシルエットにするため、すり足から所作まで。

   体をつくっていった。ゼロから」。…芸道ものだ。。
名優・花井半次郎(渡辺謙)が喜久雄(吉沢)と俊介(横浜)を扇子でぶちながら、厳しく鍛える。

   「今は歌舞伎界の教え方もだいぶ違うと聞いているから、ああいうことはないだろう。
ただ、何事も、厳しさがなければ身につけられないものがある。

   楽に手に入るものは、楽にこぼれていくし、楽に手に入るもので、人が感動することはないと思う。
他人を虜(とりこ)にするのはそう簡単なことではない。それを望むなら背負うべき厳しさがある」。

   …梨園出身でなく、極道の息子である喜久雄の「血」がポイントだ。
「吉田さんのすばらし発見だ。対立軸として歌舞伎の特徴である血統を持ってきた。

 血統主義を貫いてここまで続いている芸能は類がない。血をつなぐことは人間の根源的な欲求でもある。
そこに他者が入っていく。結果的に現代的なメタ(隠喩)になっている」。

   「世界でこれだけ移民問題がはじけている。人間は自分のテリトリー、家族、血統を。
守りたい生き物なんだということが、明確に立ち現れている。

   喜久雄というアウトサイダーが現代をどう生きるか。その命題を突き付つている気もする」。

 

           ( 日経 文化 より 李相日監督「国宝」を語る )