「小作人は、このごろじゃ、どんどんいなくなってるんだぜ」。
1930年代の米国を描いたスタインベックの小説「怒りの葡萄」冒頭近く。

   帰郷した青年にトラック運転手が地域の近況を語る。
「トラクター1台で十家族は追い出されてしまうんだ」(大久保康雄訳)。

   機械化に大規模化。資本主義という大波が農業の姿を変えた時代だ。
小さな土地を耕し、つつましく暮らす農民らは新天地の西海岸をめざす。

   時にむごい環境の変化と、誇りを持ち自らの足で八続けようとする普通の人々。
いま読むと米国社会のダイナミズムや、かの国の農業が持つ産業としての強さの根が垣間見える。

       (  日経  春秋 より  )