米国野球殿堂入りしたイチローさんへメッセージを頼まれ、一言でたたえるのに。
「努力の天才」といった表現を用いたのだけれども、ちょっとそぐわなかったと思う。

   「変態」とすべきでした。常軌を逸するこだわり、異常なまでの素晴らしさという意味でね。
アスリートが光を浴びる舞台は華やかそうにみえて、「見せている時間」は一瞬でしかない。

   裏側、隠れたバックヤードでは気が遠くなるほどの時間がささげられている。
そこでするべきルーティンや練習、生活との向き合い続ける。

   毎日毎日、自分を律し、雑音もシャットアウトしてやるべきことをやる。
自分に甘くなり、妥協しがちなのがヒトの常なのに。

   順風な時ならば決め事もすんなり続けやすい。
これが試合に負けるとなどうまくいかない時も同じく打ち込めとなると、結構きつい。

   疑念が湧き、「まあいいか」と緩む。ビールでも一杯、飲みたくなるんです。
そうした「ちょっと」をイチローさんは我慢できる。

   ヒット1本、盗塁一つ、外野からの送球一つ、それら小さな一つのために膨大な物事を律していける。
イチローさんがしてきたことをなぞれば、同じ到達点へたどり着けるかといえば、そうはいかないよね。

   けれども、それをやらないならイチローさんにはなれそうもないのも、事実。
勝つために必要なことや手法が存在し、ただしそれらは必ず勝てると保証はしない。

   だとしても、やり出さなければ目標へのスタートラインにも立てないんだ。

       (  日経  サッカー人として より   )