ライク・アンド・トラストからは別の文化も生まれた。
「言葉は絆」だ。信頼を維持するために、口に出したことは守らなければならない。

  「驚きましたな」。10年ほど前、大手銀行の最高経営責任者(CEO)から来た電話は忘れられない。
すでに合意した投資先企業への融資の条件を、うちの社員がKKR側に有利になるよう。

   ディールの条件を変えて「取引のやりなおし「をしようとしているという抗議だった。
私は社員に電話し、条件を変える理由が生じたのか尋ねた。

  「生じてません」という。「KKRのやり方じゃない。合意通りやってくれ。終わり!」。
こう告げて銀行のCEOにも謝った。

   ライク・アンド・トラストをむしばむものがある。「傲慢」だ。
私の席の後ろの棚には「傲慢はお前を殺す」という書き物が、額装しておいてある。

   私の昔からの口癖で、当時の秘書がクリスマスに贈ってくれた。
この言葉は、私たちの会社や社風を表す初期の格言になった。

   尊大になる理由など人にはない。
この額はきょうも、私に重要なことを忘れないように警告している。

     ( 日経 私の履歴書 より  ヘンリー・クラビス )