「この和上との出会いは、人生の転機になりました」。
密教の法具である金剛鈴や数珠を扱う所作、真言の意味などを。
「文字通りマンツーマンで教えを被り、質問にも丁寧に答えていただいた」。
和上は当時、60代半ばだった。

  修行を終えた後も、用事にかこつけたり、何か疑問を抱えたりした時など折に触れて尋ねた。
嫌がらずに対応していただいたのだが、やや勝手が違った。
「こちらが求める『こうしなさい』という答えをおっしゃらなかった」

  それでも、面会した後は重しが取れた気分になったそうだ。
「結局、人は誰かに悩みや困りごとを語りながら、自分の中に問題点を整理し。
答えを見つけていることも多いのではないか」。
多川さんは気付いたという。
   (  日経 Mystory  より   多川俊英  興福寺・寺務老院  )