秋場所は予想通りの大混戦となりました。
盛り上げたのは幕内2場所目の21歳、熱海富士。ただし、その事実は今の角界の危機的状況を物語っています。
熱海富士は確かに頑張りました。照ノ富士をほうふつさせる右四つの攻め。
腰が据わった前傾姿勢も理想的です。終盤は上位との連戦が続き失速。
千秋楽の朝乃山戦などを見ても、まだ実力差があることは否めません。

  史上最速優勝という「勲章」は逃したものの「経験」という財産を得ました。
自分の現在の立ち位置と足りない部分は分かったはず。
稽古環境が素晴らしい伊勢ケ浜部屋で猛稽古を積んでいますので。
苦い体験を機に大きく羽ばたいてほしいものです。

  残念ながら今場所印象に残った力士は熱海富士だけです。
優勝ラインは過去に3回しかなかった11勝。
看板力士の3大関は貴景勝が11勝、霧島が9勝、豊昇龍は千秋楽にやっとのことで勝ち越しの8勝でした。
全く物足りませんし、反省すべきです。

  熱海富士が終盤、上位との対戦が続いたのは上位陣の体たらくが原因です。
数年前までは上位によるハイレベルの優勝争いが定番。横綱戦や横綱、大関戦がなくなることは皆無でした。
最近は番付が崩壊したかのような取組編成が散見されます。
そうせざるを得ない「混戦場所」が当たり前のようになっているのは心配です。

  霧島と豊昇龍は自分の形を持っていない、器用さがあだとなっています。
対戦相手は怖さを感じないから自信を持って思い切り挑んでくる。
2人はそれに対応しているだけで、「こうしたい」という積極的な姿勢が見えません。

  優勝した貴景勝は突き押しの形がある分、「強いイメージ」を伝えることはできます。
決定戦も本割で圧倒したからこそ変化も決まりました。
ただし勝つためには有効でも、一つ上(横綱)を狙うには失ったものも多かった。
優勝4回は評価されても綱獲りへの期待は上がっていません。
今、一番強い力士なので、満場一致で「横綱に」という声がかかる相撲を目指してほしい。
     (  スポーツニッポン より  元横綱・稀勢の里 )