そう思いたくなる数字が飛び出した。1015億円。
大谷翔平選手の契約額だ。何回人生を繰り返したら追いつけるのか。

  途方もない額に驚くが、彼が私たちを魅了するのは野球にかけるストイックな姿勢ゆえだ。
「一回も(外に)出たことがないのでわからない」。ニューヨークの街について聞かれたときにそう答えた。

  評論家の小林秀雄は1959年元旦、「スポーツに思う」という随筆を本紙に寄稿した。
決められた規則や方法を楽しみながら、個性を発揮するわけに思いをはせる。

  「勝つとは、実は相手に勝つことではなく、自分の邪念に勝つことだと本能的に承知している」。
それがスポーツ精神の極意に達した選手の姿だと説いた。

   ( 日経 春秋 より  )