20世紀の暗い歴史の舞台に、心と体に傷を負った人たちが今もいる。苦しみながらも。
懸命に生きてきた彼らから話を聞き、その心の中にある一番重いものを写真に写したいと思ってきた。

   「これが人間のやることか」。そう思わずにはいられない話をたくさん聞いた。
人間を信じられず、虚無にのまれそうになる瞬間がたびたびあった。

   人間不信を深めればそれは哲学に昇華するかもしれない。だが私というちっぽけな人間には。
哲学に到達するなどとうてい無理だ。小さい自分にできることをするしかない。それは伝えること。

   他者の苦しみを自分が苦しむことはできないが、誰かの苦しみを知り。
その誰かと「共にある」ことはできるのではないか。写真に写った人と写真を見る人が結びついてほしい。

   それが私の一貫した願いである。

           ( 日経 私の履歴書 より 大石芳野・写真家 )