「最近であなたが人に優しくなれたときのことを教えてください」と教師は尋ねた。
はじめは戸惑いながらも、20人ほどの生徒たちが一人一人自身の体験を語り出す。

そのうち、見知らぬ者たちが集まったクラスの全員が、語る本人も含めて心を揺さぶられている。
すべての言葉が肯定的な感情を運んでくる。
誰もが他者の内にある善きものに触れ、教室全体が喜びに包まれている。

そんな話を教えてくれたのは、シンガポールから来日した若き作家のMさんだ。
Mさんは 、同地の大学で行われた創作ワークショップに参加したのだ。
どんな授業だったの、と僕が興味津々で尋ねたのは。
教師を務めたのが友人のインド系アメリカ人作家アキール・シャルマだったからだ。
(  日経 文化より   喜びと文学  小野正嗣  )