アサドは同科に1年間研究生として来ていた。
異国へ渡ってきたのは彼なのにいつも笑顔で、私を弟のようにかわいがり、そして励ましてくれた。

   頭が切れて、言葉一つ一つに重みがを持たせる人だ。
当時、私は自分の選択や研究に自信が持てずに悩んでいた。

   唯一心のよりどころになっていたのが、毎日夕方の5時半ごろから友人らと。
コーヒーを片手に国際政治や人生について話す時間だ。

   弱音を吐くことも、意見をぶつけることも許されるのが開放的だった。
ある日、大学の銀杏並木を歩きながら私は弱音を吐いた。

   「僕は英語がしゃべれるけれど、中身が空っぽでみっともないや」。
アサドは語気を強めてこう言った。

 「言語力は極めて重要。考えが100あっても、言葉がたった10しかない時、相手には10しか伝わらない」。

       (  日経  交遊抄 より  「100を伝える言葉」 )