真っすぐ突き進んだ先に、個人メドレー2冠という歓喜が訪れた。
競泳に限らず、後にも先にも、大橋のほかに同一五輪で金メダル2つを首にかけた日本女子選手はいない。

   まごうことなき偉業はしかし、パリ五輪へと視線を切り替えた女王の双肩にずしりとのしかかった。
増幅する周囲の期待、夢の実現と引き換えに萌芽した喪失感、理想の泳ぎと現実とのギャップ。

   やがて「自分の感情がどうなっているのかすら把握できない」状態に陥った。
悩める日々のなか、ふと手の中の金メダルを見つめなおした。

   大橋が考える五輪は「練習だけじゃなくて、考えとか感情とか思考とか性格とか全てが出るところ。
改めて「私はわたしは、何に自信を持っていいのか」と自問すると、メダルの色ではなく。

   「あの時に恐れず、勇気を持って挑戦できたこと」という答えに行き着いた。

        ( 日経 引退模様 より  競泳  大橋悠依 )