「街で薬が売れんようになる薬局を作りたいんです」。
7年ほど前、初めてお会いした時の一言は鮮明に覚えている。

   ふさふさの白髪に黒縁のメガネをかけ、あの国民的大作家のような風貌。
佐賀県を中心に薬局チェーンを展開するミズホールディングス会長の溝上泰弘さんだ。

   私はそのころ外資系企業に勤務し、厚生労働省の後輩だった妻の出向に伴って佐賀県に住んでいた。
娘が通う保育園が何やら面白そうで、その経営者である溝上さんに会いに行ったのだった。

   子どもたちに哲学を教えたりする保育園で、保育士さんたちもキラキラと働いていた。
溝上さんは大病を克服しながら、佐賀の健康づくりという公益にまい進した。

   無類の読書家でもあり、図書館や高齢者マンション。
薬局などが入る複合施設「みずがいえ」をつくった。別棟にクリニックも併設した。

   「しっかり稼いで初めて、みんなを幸せにできるんだよ」。
夢を実現できたのは経営者としての手腕があったからだ。

 

     ( 日経 交遊抄 より 「薬が売れない薬屋さん」 )