その対談で大江さんは、私の文学が安倍公房の系譜にあると指摘してくださったのだが。
まさに私はそのお二人の文学に、大学時代に虜になっていた。
お二人の小説とエッセイを、すべて年代順に読んだ。恥ずかしながら、もどきの作品を書いてみたりもした。
世が村上春樹さんの大ブームに沸く中、私は少しアナクロだったかもしれない。

  その過程で私は、小説はどんな途方もない想像力であっても駆使してよいこと。
その想像力を使う者には大きな責任があるということを、学んだ。
それが大江さんの、社会や政治に対する発言ともつながっている。

大江さんは、まだ偏見の強い時代に、障害を持つ息子さんのことを、小説にエッセイに書いて表わしてきた。
誰であれ人が生きることの価値を、徹底的に肯定したこの姿勢は、被爆者にも向けられた。

大江さんが社会問題について発言するとき、根底には常にその感覚があったと思う。
  それが大江さんの共生の思想を支えている。
   (  日経  文化より  星野 智幸  )