「人の成長しかり、過程が大事だと。まっすぐ向き合うことで個性も分かってくる。
選手にだってけがや体調、それぞれの事情がある。監督時代にそういうメンタルが僕にあれば。

  いまさらながらにそう思うことはあります」
16年リオデジャネイロ五輪で篠原ジャパンを引き継いだ井上康生氏が男子柔道を復活させた。

  史上初めて全7階級でメダル(金2、銀1、銅4)を獲得。
21年東京は73キロ級・大野将平の2連覇や、66キロ級・阿部一二三など5階級を制覇。

  金メダル獲得数で史上最多記録を塗り替えた。
日本柔道界では慣例だった全体主義的な「量」を求める練習の仕方を見直した。

  自主性を持たせて、さらにどう伸ばすか。
井上氏の指導メソッド「熱意」「誠意」「創意」に、篠原さんは感銘を受けた。

  気配り、目配せが常に求められる農作物の生育にも似ていたからだ。
「リオ五輪で大野が金メダルを取った時に出た、あの康生のガッツポーズ。

  あれが本当の監督の思いなんですよね」。
手塩にかけて育てたブルーベリーの木に大きな実がつくと篠原さんも心の中で会心のガッツポーズを作っている。

  豊作の年もあれば不作の年もある。「良いも悪いも次につながっていく」と、篠原さんは言う。
今夏のパリ五輪で男子柔道代表を指揮する鈴木桂治氏に期待している。

  「例えて言うなら駅伝のたすきリレーですかね。
篠原がロンドン五輪という名の1区で足を引っ張って、花の2区で井上康生が巻き返し。

  そしてパリで桂治が康生から受け継いだタスキをかけてつなげていく―。
そういう思いで安曇野からパリで戦う選手たちを応援したいです」。

     (  日経  スポーツ報知 より