もう一つ重要な課題があった。14のボトラーの経営効率化だ。
店頭ではデフレが進むと同時に、流通構造が変化。

   かつて大成功したコカ・コーラの事業モデルも構造改革を進めなければならない。
40以上ある工場の統廃合も必要だ。

   社長就任パーティーを終え、その足で全国のボトラーの首脳たちと熱海で合宿。
「未来のために納得するまで本音で話し合いましょう」と伝えた。

   ボトラーの株主は、総合商社や地元の有力企業。社長も大株主出身。
私より10歳以上の大先輩。若造からの再編提案に違和感を覚えた人もいたが。

   このままではダメだの危機感が共有できた。
副社長時代、海外では既に米本社が直接投資をしてボトラーの買収合併が始まっていた。

   日本でも「統合を急ぐべきだ」と米本社が主張し、ボトラーと親会社が反発。
米本社にボトラーの全社長をまねいたが利害が対立し雰囲気が悪くなった。

   そんな時、伝説の経営者、ロベルト・ゴイズエタ会長が現れた。
「スペイン人は諺(ことわざ)があります。『なぜ鳥は空高く飛べるのか。

   それは左右の翼がバランスよく羽ばたくから』です」。
運命共同体として信頼し合うことを説いた。まさにコカ・コーラの本質。感動して涙した。

   これが私の聞いたゴイズエスタさんの最後の言葉だった。

 

          ( 日経  私の履歴書   より  魚谷 雅彦  資生堂前会長CEO  )