先日岩波文庫に入り、広く手に取りやすくなった。
作品と作者がたどった道のりは平たんではない。

   当初は占領下ゆえ原爆被害の公表が規制された。
後に被爆を描く小説の執筆が続くと文壇などから「終わった原爆を売り物にする」と非難された。

   女性による怒りや抗議を嫌う男社会での差別もあったと解説文は指摘する。
原爆投下の翌日。むごい遺体を見つめる作家は、妹から「よくごらんになれるわね」ととがめられ。

   こう答える。「いつかは書かなくてはならないね。これを見た作家の責任だもの」。
被爆の体験者が減り、惨禍を伝えることが難しくなる。

   残された大切な言葉をどう未来に残すか。
バトンは今を生きる私たちの手にある。

       (  日経  春秋 より  )