イタリア各地でニュースを探すのが仕事だった。
のでこれまでずっと、着いては発って、を繰り返してきた。
そういう時、大切な連れは「窓」だった。
電車や自動車、駅の待合室の扉窓、食堂では窓際に座り、宿に着いたらまずカーテンを開ける。
本を読んだり音楽を聴いたりするより、窓からの眺めにホッとした。

 「いつも旅行ができるなんて」とよくうらやましがられた。
でも記憶に残るのは特別な場所や行事より、移動中の窓から目にした情景であることが多い。
行く先々で、メモの代わりに写真を撮ってきた。
コンピューターの中に、「#窓」と名付けたフォルダーがある。
中に過去の窓が並んでいる。
(  日経文化  窓 より  内田洋子 ジャーナリスト  )