昨年の自著「おじゃじはニーチェ」では認知症の父親をみとるまでの自問自答の日々をつづった。
父が何を言おうと「大丈夫」と返すのは、ただの口封じではないのか。

   「〇〇さんが心配していたよ」と聞いて涙ぐむ父。
認知症は単にものを忘れることではない。人とのつながりの確信が消える恐怖なのではないかと気づく。

   丁寧な取材と思考でつぐむノンフィクション作品で知られた高橋藩が62歳で亡くなった。
「よりよく生きる」意味を「みんなで考える」矛盾を突いた「道徳教室」。

   自分探しに明け暮れる人々を追う「トラウマの国ニッポン」。
視点が斬新で、皮肉交じりの筆致も温かい。何よりも、自力で考え抜く姿勢を大事にした。

     (  日経  春秋 より  )