きっかけは、私の書評に横尾さんが共感して「野矢さんの言う通りだ」とメールをくれたことだった。
アトリエを訪ねると、そのときは寒山百得展の準備中だったので描きかけの絵も並んでおり。

  会場で見るのとは違う生々しさがある。
紙片が落ちていて、ゴミかと思って「これください」と言ったら。
「それはあとで貼り付けるからだめ」と言われた。

  横尾さんお薦めのトンカツ弁当を、コロナを警戒して黙食した。
食べ終えて横尾さんはいつものはにかむような表情で言った。

  「やっぱりお喋りしながら食べた方がおいしいね。」
横尾さんが横尾忠則であることが、なんだか不思議な感じがする。

 

    (  日経  交遊抄 より  「ヒーローとトンカツ」 野矢 茂樹  哲学者  )