ブドウも良くなった。ワインも良くなった。
準備が大詰めに差しかかったところで、日本酒メーカーはワイナリー計画の中止を決めた。

  残されたのはブドウ畑と、共に研さんを積んだ技術者。
「これからどうしたい?」と彼に尋ねると「会社に戻らず、ここでワイナリーをやりたい」という。

  1億円の借金を背負って、自らワイナリーを開くしかないかなー。
妻を始め、周りは大反対した。でも「まだ50代なのに『田舎の幸せおじさん』に収まっていいのか。

  先の見えないことをやってみたい」と役所や銀行を回り、何百人もの知り合いに支援をお願いした。
オーベルジュを併設しようと設計図を書いて夢想を膨らませたのに制度の壁にぶつかったこともあった。

  断念と修正の連続だった。何とかオープンにこぎ着けたのは2年後のことだ。

    ( 日経 Mystory より  玉村 豊男  エッセイスト・ワイナリーオーナー)