グエン・ファン・チャンはベトナム戦争においても、いわゆる戦争画は描かなかった。
画材をもって爆撃を逃れつつ、作品にしたのは、田舎の風景や田畑で働く女性といった庶民の日常だ。
奏した母国への温かいまなざしも、日本でプロジェクトにかかわるすべての人の心を打った。

  グエットさんが来日したのは11年10月。
保存修復作業を終えたばかりの3枚の絵と対面した。
「まごうことなく父の作品そのものです」。
ほっと胸をなで下ろす私たちに、父親が残したという次の言葉も送ってくれた。

  「どんなに鮮やかな色彩であっても、いつか色褪せていく。
どんなに美しく描かれた絵であっても、永遠に保つはできない。
時と共に永遠に遺り突けるものは人への愛である。
(  日経 ベトナム絹絵、日本で守る  )