私は育てられたとおりの家事のが苦手な人間に仕上がった。
40歳を過ぎるまで包丁も握ったことがなく、料理は出汁が必要ということも。
お肉が部位のよって味が異なるということも、気づかずに生きてきてしまった。

  そのせいか、結婚後も世間に慣れるということがなく、スーパーマーケットに言っても。
野菜の艶や白さに心を動かされて、まともに買い物ができない。

  艶やかな茄子を包丁で切るなんてとてもできない、と思ってしまう。
しかしこの結果は、私を家事の苦労から守ろうと必死になれない家事に挑んだ。
母の努力の証しでもあるのだ(逆効果だったけど)。

  親のせいにするな。そう説教するひともいるだろうが、環境は子どもの力では変えられないので。
その意味ではやはり親のせいかもしれない。

  幼年期に教わらなかったことを大人になってから努力して覚えても。
基礎がないのでしっかりとは身につかない。そのもどかしさは筆舌に尽くしがたいものだ。

   (  日経 文化 より  母とわたしの「戦後」 )