数多くの音楽家をの写真を撮ってきたが、私の場合。
シャッターを切る瞬間というのは、ほとんど音が聞こえていない。邸内。

  だから、カメラを構えず後ろに立っていたこのとき、初めてフジコさんの演奏を「聴いた」のだ。
クラシック音楽に詳しいわけではないし、うまく言葉で言い表せないが。
その音色とにじみ出る空気は、確かに他のピアニストとは異質のものだった。

  「間違えたっていいじゃない、機械じゃないんだから」。
そんな「名言」で知られるフジコさんだが、実際には演奏を磨く努力を惜しまなかった。

東京・下北沢の家bの前を通りかかるといつもピアノの音が聞こえてきた。
ステージの上がる前には胸の前で十字を切り、本番で間違えた時はかわいそうになるくらい落ち込んでいた。

   (  日経 文化 より  名言の裏にシャイな心  )