「引退」という言葉を強く意識したのは東京五輪さなかのこと。
最後の出場種目だった200ⅿ個人メドレーの予選を夜に控え、選手村のベットに横になっていた時。

   「準決勝に残れるだろうか。この予選がラストになるかもしれないと思った。
生後6か月から水泳を始めたこと。高校生で初めて五輪のプールで泳いだこと。

   日の丸のジャージーを着て数々の海外遠征に参加したこと。
水泳が人生にもたらしてくれたことが次々と脳裏に浮かび、自分にとっては。

   「泳ぐことそのものに意味があるんだ」との思いに至った。
内面のつっかえが溶解し、決勝では得意の背泳ぎにすべてをかける。

   「メダルを取りに行くレース」ができた。
現役最後のレースは6位に終わったが、目標に向かって力強く闘い抜けたことを今でも誇りに思っている。

 

     ( 日経  スポートピア   より  「現役引退から始まること」 )