陸に封印された国の悲哀を最も感じたのはスーパーだ。
商品棚には日本や韓国、ドイツ、ロシアの製品が並ぶ。

   モンゴルは肉と乳製品の自給率は高いが、それ以外の諸君品の多くは輸入に頼る。
ウクライナ戦争開始後、西側の対ロ制裁のために欧州からの物資の多くはロシア経由では入ってこなくなった。

   ベラルーシ、トルコ、中央アジア、中国など様々な迂回路を経て届くという。
スーパーで売られているリンゴは、なぜかポーランド産ばかりだった。

   戦争開始後前、ポーランドのリンゴ農家にとってロシアは最大の顧客だった。
行き場を失ったリンゴが、いったいどうやってモンゴルにたどり着いたのか。可憐なリンゴは何も語らない。

   海から来る物資の荷揚げ港は天津だそうだ。
物資が順調に届くかどうかは中国のご機嫌次第の面があるのだろう。

   新潟産こしひかりと韓国のりがスーパーの棚に並んでいる光景は。
東アジアの平和が乱れれば一瞬で吹き飛びかねない。

   つくづく周囲を海に囲まれる日本は恵まれていると思った。
「日本には資源がない」というが、資源を外から運んでくるのは自由だ。

   「海が自由である」ことがいかに尊いか、対して陸は自由ではない。
モンゴルに入るすべての物資はエネルギーからぜいたく品まで、ロシア領か中国領を通ってくるしかない。

   ( 日経  文化 より 「ウランバートルのリンゴ」 )