1966年に作家デビューして以来、50年以上にわたって小説を書き続けてきました。

 「朝鮮半島で過ごしていた幼少期、人が群がっている。
のぞいてみると老人が絵巻物を示しながら物語を語っていた。大道芸人だったのでしょう。
聴衆が熱心に聞きいっているのを見て、自分もこんなことをしたいと思ったのです」

 「聞くことや語ることが大切という思いが強いですね。
キリストやソクラテスは文章を残さず、彼らが語ったことを弟子たちが聴いてまとめた。
それはブッタも同じ。記録より記憶というわけです。

  私は執筆と同じくらい、講演や対談、ラジオの仕事を大事にしてきました。
夜、対談相手を振り返っていたら700人まで思い出したところで寝てしまいましたが。
1000人は超えているはずです」

  人生100年時代、2回生きるようなイメージを持つことを勧めています。

  「リスキリング(学び直し)がいま盛んに言われていますが。
それよりも(自己の経験をリセットする)アンラーンこそ求められているのではないでしょうか。
私も50歳前後のとき、休筆て京都の大学で仏教を学びました。
そこで知ったのが(他人の助力をさす)『他力』。
他者の欲求によって自分は書かされているのという考え方です。
自分が百八十度変わったように思います」
(  日経  人生100年の羅針盤より  作家  五木寛之(90歳) )