全盲の弁護士としてテレビドラマのモデルにもなった大胡田誠さんは、慶応大学法科大学院の同級生だ。
いつも教室の最前列中央の席で熱心に授業を聞いていた。

   弁護士を目指す気迫あふれる姿に触れるたびに、進路を模索していた当時の自分は。
奮い立たされる思いだった。

   普段は明るく冗談ばかり。クラス合宿では、得意のギターを弾いて「夜空ノムコウ」を歌ってくれた。
その優しい歌声に感動して、クラスメートといっしょに涙を流したことを思い出す。

   大胡田さんが「心ってどこにあると思う?元々身体のどこかにあるのではなくて。
誰かを思う時に、自分とその誰かの間に生じるのが心なんだよ」と話すのを聞いて、実に彼らしいと思った。

   ふと彼のことを思う時に、自分の心が豊かになったと感じることがある。
きっとそれが「心のバリアフリー」なのだと気づかせてくれた。

            (  日経 交遊抄 より 「心のバリアフリー」  )