浅井さんは豪胆さと情の厚さを兼ね備えていた。
買い出し人になった初日、手のサインを誤って大根を1日で通常の11か月分も買ってしまった。

   取り消しは出来ず、直後に店に届いたのはトラックいっぱいの農産物。
「1円の大切さを忘れるな」と指導されながら、10万年以上の損失を抱えかねない危機に直面した。

   浅井さんは苦笑いで済ました分、「考えて売れ」と激励した。
私はおでんや漬物に調理したり、氷での保冷技術を学んだりして、数日で約2千本を完売させた。

   あの時の冷汗は忘れられない。
縁があって自動車部品の製造業に就職した。

   浅井さんから教わった「人との出会いが自分を磨く」という言葉は仕事の原動力になった。

     (  日経 交遊抄 より 「スーパーのおやじ」 水野昭智 )